約 2,670,964 件
https://w.atwiki.jp/kurokage136/pages/284.html
▽タグ一覧 エイプリル企画とは、小説カキコ二次創作板内でほぼ勝手に行われるイベントである 今どきのエイプリルフールは嘘の名目で面白いギャグネタ、ジョークをかますのが定番であるが カキコ二次創作者もエイプリル企画と称して普段やらないネタをやるのが定番となっている スケジュールの都合で間に合わない人もいるけど メイドウィンは2020年から始めている 2020年 ○○中after【休息中】 MM逃走中の最後に行われる打ち上げを主軸としたエピソード。 黒影旅館内で一同はどのように過ごしているのか…? 何気に黒影剣が復活した超重要回。 2021【銭闘中】 「逃走成功者は賞金を何に使っているのか?」という考察ネタ 金の在処を調べていくうちに、あるショッピングモールへとたどり着く…… 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/gununu/pages/2647.html
エイプリル〔えいぷりる〕 作品名:COYOTE RAGTIME SHOW 作者名:[[]] 投稿日:年月日 画像情報:640×480px サイズ:109,553 byte ジャンル:[[]] キャラ情報 このぐぬコラについて コメント 名前 コメント 登録タグ COYOTE RAGTIME SHOW 個別え
https://w.atwiki.jp/coyote/pages/35.html
彼女の休日 エイプリルの場合 「……ううん、………ん?」 エイプリルがこの日最初に目にしたのは、シートの上で分解された愛用のルガーP08だった。 どうやら椅子に座り、机に突っ伏した状態で寝ていたらしい。 眠気の残る目を擦りながら、彼女はあたりを見渡した。 調度類の少ない部屋の窓には朝日が差し込み、目覚まし代わりのステレオはラジオ放送の7時のニュースを流している。 机に目を見遣ると銃の整備の途中で眠ってしまったらしく、綺麗に磨かれた部品とそうでない部品が左右に分けて置かれ、 手元のライトは点灯したままだ。 鏡に映る寝巻き姿の自分を見て、我ながら珍しいなとエイプリルは思った。 就寝前に行う銃の整備など手短に済まして、暖かなベッドに潜り込むのがいつものことだが今日は違った。 寝る直前のことを思い出してみようとしたが、ぼんやりとしていて思い出せない。 知らず知らずのうちに寝てしまうとは自分らしくもない。最近は疲労がたまっているのだろうか。 12姉妹のリーダーとして個性的なメンバーをまとめることは、何かと気苦労は耐えないと自覚はしていたが、 ここまでたまっているとは思っても見なかった。 今日は特に予定も無いようだし、どこかで羽を伸ばしてみるのも悪くは無い。 机を片付け、着替えて部屋から出ると、なにやらリビングが騒がしい。朝から誰かが言い争っているようだ。 何だと思いリビングに行ってみると異様な光景がそこにあった。 「何度言ったら分かりますのセプ! 今日は私と「」さんでオペラ鑑賞に行くのですわぁぁ!」 「いいえ、「」さんは私と遊園地へ遊びに行くのよ! それならお母様と一緒に行きなさいよジャニアリー!」 「痛い! 痛い! 痛いってば二人とも! 腕がぁぁちぎれるぅぅああああ!」 何故かジャニアリーとセプが互いに「」の両腕を引っ張り合っている。 両者に退く全く意思は無く、力の限り引っ張っているので、「」が悲鳴を上げるのだが耳に入っていない様子だ。 「これは一体何なんですの!? とにかく二人ともお止めなさい」 エイプリルが制止して、二人はやっと「」の腕を放した。 今までありえない力で引っ張られていた「」は拷問のような苦痛から開放されると、その場にへたり込んだ。 「エイプリル、聞いてくださいまし、セプったら家に来た「」を独占して連れ回そうとするのですわ!」 「何よ、ジャニアリーだって同じようなものじゃない!」 「何ですってぇ!」 「何よ!」 ため息をつきながら、エイプリルはへたり込んだ「」の傍にしゃがんだ。 「まったく、二人とも朝から騒々しいったらありゃしませんわよ。それで「」さん、何か私たちに用がありまして?」 「今日はエイプリルさんと一緒にどっか行こうと思って、誘いに来たんだけど空いてる?」 「そ、それは俗に言うデ、デートのお誘いですの?」 「多分そうだと思う。いいかな」 「も、もちろんですわ。今すぐ準備いたしますから少々待っていて下さいまし!」 言うなりエイプリルは一目散に部屋へと駆け込んで言った。 ふと視線を感じた「」が振り向くとジャニアリーとセプがジト目で睨んでいた。 「「「」さん」」 「二人ともごめんね、こんど何かあったら誘うからさ」 「うう……」 「さぁ、準備できましたわ。行きますわよ「」さん!」 「「「早っ!」」」 行き先も決めないまま、家を出たので二人はとりあえず街の方へ来た。 しかし、ずっと知ったる街をブラブラとまわっているのは飽きるので、 エイプリルの提案で郊外に新しく出来たショッピングモールへ行くことにした。 今日は休日ということもあってか、大勢の客がショッピングモールに来ていた。 家族連れの者。友人同士で買い物に来た物。一人で暇つぶしに来た者。そしてカップルで来た者。 「やはり……に見える………のでしょうか」 「えっ? 何て言ったの?」 「だから、私たちもこうしていると、こ、恋人同士に見えるのかしら!?」 そう言うとエイプリルはボンッと音を出しそうな感じで顔を赤らめた。 そうして、しばらく歩くと突然足を止めて、おずおずと「」へ手を差し出した。 「エイプリルさん、手がどうかしたの?」 「こ、こ、恋人同士に見えるなら手くらい繋いでいても不思議ではありませんわ。というよりも繋ぎなさいな「」さん!」 照れながら繋いだエイプリルの手は、仄かに暖かくて柔らかい。 始めはお互いに照れのせいであまり会話を交わさなかったが、しだいに会話が弾むようになっていった。 ある洋服店の前を通りかかったとき、エイプリルがショーウィンドウをしげしげと覗き込んだ。 「あら、「」さん。このセーターはいかがですか?」 「エイプリルさん、2着も同じセーター買って何するの」 「一つは私。もう一つは貴方が着るのですわ。お揃いのセーターを着て、寒い冬を二人で暖かく過ごせるなんて素晴らしいですわよ」 「――分かったよ。ちょっと待ってて」 「え、「」さん?」 2着のセーターは少し値が張ったが、エイプリルに見せたときの驚いた顔とうれしそうな顔に比べれば安い物だ。 その後も、二人で雑貨品店や食品店を見て回った。 しかし、少しずつエイプリルとの距離が縮まってきたのは、何故だろうか。 ここに来た時は半歩ほど離れていたのに、今では肩が触れそうなくらいにまでに近づいている。 「あのさ、何かどんどん近くにきてない、エイプリルさん?」 「あら、貴方は私と腕を組みたくないとおっしゃるの? むしろ組まないとぶっ壊しますわよ。よろしくて?」 今回は、どうやら「」にはありがたいことに拒否権は無いらしい。 夕暮れ時、二人は家までの道を腕を組んだまま歩いていた。 夕焼けに照らされたエイプリルの横顔を見て、「」はなんともいえない気持ちになった。 可愛いとか綺麗だとかそういう言葉はこんな時に言うんだろう。 どんどん近づいてくる家が疎ましい。こんな時がずっと続けばいいのに。 しかし、楽しい時間はすぐに過ぎてしまい、二人は家の前に着いた。 「今日は楽しかったですわ」 「ボクも楽しかったよ」 「そうですわ。「」さん、少しだけ目を閉じてくださいまし」 「う、うん」 次の瞬間、目を閉じた「」の頬に柔らかい感触のものが触れた。 驚いて目を開けると、視界にはドアの前に立ったエイプリルがいた。 「また明日会いましょうね「」さん」 「……うん、また明日」 帰っていった「」の背を見送りつつ、エイプリルは平静を保つのに必死だった。 こんな顔はお母様にも見せられないだろう。 何とか落ち着きを取り戻し、家のリビングに入るとその場にいた者たちがこちらを見た。 ニヤニヤしてたり、意味深な顔をしたり、憤怒していたりと多種多様だ。 「あれ、今日は早かったね。マーチの話だとてっきり朝帰りだと思ってたよ」 「これは予想外」 「うふふ……」 「エイプリルゥゥ! 「」さんとは何もやましい事はしていませんわよねぇぇぇ!?」 「まさか、もうCまでやってしまったの?」 「「「ねーねー、オーガスト。『朝帰り』って何?」」」 「分かんない、お母様に聞いてみよう」 「これは次の原稿に使えそうだわ」 「土産は無いのか?」 一同の反応を見ながら、エイプリルは本日2度目のため息をつきつつ、こんな休日もありですわねと思った。
https://w.atwiki.jp/bonescrusade/pages/260.html
エイプリル 神曲の共鳴 UNIT U-054 青 1-3-0 C リンク ブースト 〔対価(4)▶このカードと交戦中の速攻 高速戦闘を持つ敵軍ユニット1枚をロールする〕 契約者 組織 Sサイズ [3][1][3] 出典 「DARKER THAN BLACK 流星の双子」 2009
https://w.atwiki.jp/atelier_flareon/pages/187.html
トレーナー:マンタ ポケモン名:クチート 「嘘」をコンセプトに育てられた読み型クチート。 完全に読み型で、トレーナースキルが問われる。 交換読み気合パンチが決まった時の感動はひとしお。 NNの由来は「トランジスタにヴィーナス」という漫画の主人公で女スパイであるエイプリル・イーナスから。 四月バカにも掛けている。 キスが上手いらしい。
https://w.atwiki.jp/alice-baseball/pages/204.html
/ / ヽ (__. { / ∨ } _}_; | V_}___. ノ ,' j i|\ '√ ` .、. { ; l| _;;; il-‐≒…―― ゚,. }\. 廴; |ハ {_,ノ i |ハi| ‘; `、 , / | {, i i i |.,. ヘ`、 | j | 斗 ''~ ̄Ⅵ\ '; i /. ′. rz_彡1 | jレ1 '; 、 | , l 斗f斧丐ミY^) }、 | i| .ノ{ ノ′ / | | / l| レ' Ⅵハ l ル′圦、込り 叭 .圦ヽ ノ i| ^゙, { { | j , / l{'ル,竓r示、 ' ;l /i|  ̄ ̄ ハ ヽ\ 从 .| } `、 |1 |{ , i"} Yィj「込リ,ノヘ. l ∧ } _,..‐''⌒ , ゚, '\| | |. ヾ , 从ハ , |′卜>''゙´/^7Y { } (ー' ,,...; ', { } }-=ミ / 丿. i「 )乂 ハ | {{ , / .,| ハ ′  ̄ 人_ ヽ ゚, | / ⌒ヾ´ } )\ ∧! 廴__/ / /从 __彡/´ 〉゚, Ⅵ i \. `、 ノ|^{ ゚, { ∨ / / _ァ==ァ‐' ノ/` ' 丿| 、 .\ \;_;_;,.. ^ .| \ } ∨ .' j.、 ⌒¨_´ノ / {'′ / 、 .`、 ヽ / ,' '; ^{ 〈 ゝ \ { / `、 .`、 ` 、 ′ { 八 \ 丶、 } ヽ{_ノ( `、 .`、 ). |_;_;_;_;_;_;_厶 \ \―彳 _ノ⌒ヽ. }ヘ `、 .`、 .}'⌒´ ∠ニニニニニニニハ ` ...,_ }~ヘ .、_ノ⌒、 ,,z仁ニヘ、 Vこ廴丿 _∠ニニニニニニニニニニ. r~ァ /⌒⌒ '⌒ヽ __z仁二ニニニヘ、 `、. }f⌒ヾ\ニニニニニニニ} ,i| /^⌒f~ー≠┐ O^ヽ__,z仁ニニニニニニニニ兮.、 `、. /ニニニ\\ニニニニニ7 人ノ ノ 丿 /) f守ニニニニニニニニニニニニ=兮.、 `、 /ニニニニニニ\\ニニ=/ ,z兮ニ≧=ァ=ァ=ァ=十ァ{ 辷`寸ニニニニニニニニニニニニニニ≧z.【エイプリル】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓【Status】 性別: 女性 年齢: 18?(アリスが2年生の時) 彼氏: 野比さん────────────────────────────────────────|【Profile】この世界の野比さんの幼馴染のしずかちゃん。完全に野比さんが大人なので、周囲もそれに引きずられて成長しました。肉食系と化してますが大阪桐生は特に女子マネとか採用してないので、あくまで同じ学校に通う程度でしか会えません。他、ジャイアン、スネ夫、出来杉もいますが特に野球部とかじゃないです。ドラえもん? あの人はほら、月見草の人役だから。 4スレ目9485━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛ 備考:AAはコヨーテ・ラグタイムショーのエイプリル。
https://w.atwiki.jp/zayin/pages/2079.html
総合力 ★☆☆★★ 連携力 ( ´^,_」^)すごい高い 所属人数 やばい 初心者育成 めっちゃしてる 厨房度 温厚な人柄 勝ち馬属性 \さすがだな/ 問題児 [xRarisx] [ポギー] 気になる人 織田家 元々はポギー、アニソン、スペツナズのパ二カスネタ部隊だったが、 積極的な裏方、主戦維持力に惹かれた人たちが集まり、エルにはなくてはならない部隊になった。 初心者に優しく、前線の押し引きをしたり、チャットで敵も味方も楽しく戦争ができるように日々努力している。 味方が良い動きをすると白字で褒める姿勢は、マナーが悪いといわれるfezプレイヤーの中でも特に紳士的であるといえる。 部隊員の100%が女という女性率の高さも特徴の一つ。 ジュライに入りたい奴は適当な人に声かけろな。 と言うのが理想であったが、現実は負けフラグ部隊であった。 僻地攻め、空き巣をするが大抵押されるか、負けてしまう・・・ 部隊員一覧 キャラ名 職業 別キャラ コメント キャラ名 職業 別キャラ コメント ポギー ヲリ エルシャダイマグロ配達人Zデビルドラゴン "ジュライの前田 敦子"の異名をとる元気な女子大学生 アニソン 短 プラチナドラゴン "ジュライの板野友美" スペツナズ 銃 部隊長(就活中)糞オイル市ねと言われて落ち込んだらしい。 ランドセルかばん 氷皿 癒しの星猫天使姫クイーントラゴン "ジュライの大島 優子" キングドラゴン 短 汚いやる夫超もふさん "ジュライのべにこ" なぎっちぇ ヲリ "ポギーの嫁" xRalisx ヲリ 団子☆次郎パブロフ "ジュライのナイアス" アルプスの少女 皿 "ジュライのハイジ" ホット 短 "ジュライの高橋みなみ" [白薔薇] ヲリ 好きな物そるりん"ジュライの篠田麻里子" White_Style 片手 "ジュライの柏木由紀" 瑠璃架 氷皿 "ジュライの宮澤佐江" 黒猫の爪 短 "ジュライの渡辺麻友" Shape 笛 "ジュライの高城亜樹" †桜姫† ヲリ †姫雪††姫桜† "ジュライの仲川遥香" akikan 皿 スカルドラゴン "ジュライの平嶋夏海" γセレンγ ヲリ バスタードラゴン "ジュライの小野恵令奈" DAIGO 笛 "ジュライの倉持明日香" トモミ 皿 "ジュライの佐藤亜美菜" コメント ks部隊のジュライさん、はやくそるりん引き取ってください - 名無しさん 2011-07-12 12 26 26 最近部隊で真面目に戦争してて吹いたwwwww - 名無しさん 2011-07-13 00 29 20 ホルに空き巣して負けんな - 名無しさん 2011-08-06 14 04 08 エルのハーデンスシリーズは中身こいつら - 名無しさん 2011-10-24 22 09 37 目立って上手いのはホットとかポギーくらいであとのやつらは並の実力だろ - 名無しさん 2012-07-02 15 28 45 ↑自演乙過ぎる。実力はそこそこなだけ、中央とかおいしいとこでしかスコア稼げないただの群れ。 - 名無しさん 2012-07-02 17 29 26 なぜばれてしまったんだ・・・ - ボギー 2012-07-02 20 05 08 正直パニしてたほうが強かった - 名無しさん 2012-08-07 13 04 10 名前
https://w.atwiki.jp/eversince/pages/135.html
材料 エイプリル+1 1 エルダーストーン原石 12 銀 3 クリソベリル 2 固い木の皮 8 トパーズ 1 <戻るエイプリル>
https://w.atwiki.jp/coyote/pages/43.html
エイプリル教官 その1 その2
https://w.atwiki.jp/coyote/pages/143.html
フェブラリーはマーチと喧嘩をした。 * * * そのことが艦の皆に知れるのは、時間の問題だろう。でも私は隠しておきたかった。これは私たちの問題だと思っていたからだ。 ことの発端は、マーチの方だったと言いたい。だが、これははっきり言って、そこまでの事態になる筈でないものだった。 彼女が自分の部隊の兵士を、とても個人的な用事にこき使うのを見ており、かねてから気に掛けていた私は、先日彼女に忠告したのだ。 私はこのところ暫く多忙を極めており、対照的に有閑な様子のマーチに対する苛立ちがあったことは、素直に認めようと思う。 けれど彼女の職権濫用は甚だしく、寛容なメイお姉様も折を見て注意をしようとしていたほどだったのだ。先立って私が諌めておけば、 世代間の溝などが出来る心配もないし(マーチはそれを作り易い性格だ)、私の言うことならきっと、という気持ちもあった。 結論から言えば、その勝手な期待は裏切られた。マーチは私の言葉を無視し、私はカッとなって彼女に荒い態度を取り、口論が始まって、 挙句の果てにマーチは両頬に一発ずつ平手を受け、私は彼女の部屋から蹴り出された。 私は二つの問題を抱えてしまった。激化する彼女の兵士の私物化を止めなければならないし、彼女といつまでも不仲ではいたくなかった。 彼女には多くの欠点があるが、それも含めて私はマーチが好きだった。姉妹の中で一番、仲良くしている自負がある。 が、今となってはそれも昔のことになってしまったようだった。マーチは私を露骨に避け始めた。私が自分の能力を使って彼女を見つけ、 話そうとしても、耳も貸さずにすっと脇を通り抜けて行くのだ。こんなことはこれまでなかった。今までにも、喧嘩したことはある。 下らない理由のこともあったし、今回よりも重要なことで起こった喧嘩もあった。それでも、マーチは私を避けなどしなかったのだ。 それなのに、今はどうだろう。マーチは私と目を合わそうともしない。時間があり、兵士を酷使する理由を見つけられないでいる時には、 大概ジューンと一緒にいる。ジューンは勘のいい子だから、私たちの間に何があったかを気付いているのだろう、頻りに私を気にして、 ちらちらと視線を送ってくるが、そんな彼女をマーチは引っ張って何処かに連れて行ってしまう。マーチの動向について訊ねる隙もない。 通信で、と思い実行してみたが、それくらいマーチも考えていたらしく、ジューンは、彼女に口止めされているのだとだけ教えてくれた。 そうして、私は分かった。私はすっかり、彼女に嫌われてしまったのだろう。昔から、マーチは執着心の強い方ではなかった。 私が彼女を失いがたく、得がたい友人、親友だと思っていたとしても、彼女が私をそう思っていてくれたかは、私には分からないことで、 今回のことを見る以上は、マーチが私を必ずしもそうとは思っていなかったと考慮するしかない。 私は、私が腰掛けている自室の回転椅子の背もたれに体重を預け、床を蹴って緩やかに回った。最近引き受けていた仕事も片付いて、 いつになく暇になっていた。こんな時に決まって私が叩くのは、親友の部屋の扉だったが、もう彼女が応えることはないだろう。 二人で部屋にこもって遊ぶこともなければ、何をするでもなくベッドに寝転んで二人して戯れることもなく、一緒に本を読んだり、 映画を見たり、思い出話をしたり、これからのことを話したり、思いつくだけのあらゆる遊びを気の向くままにすることも、もうない。 実感はなかった。もしかしたらそうはならないかも、という楽観的な予測はあったが、それを信じられるほど、私は素直ではなかった。 床に足の指を着けて、椅子の回転を止める。立ち上がり、冷蔵庫に飲み物を取りに行くが、切れている。私は思わず、舌打ちをした。 何でもいいから仕事が入ればいいのに、と思った。そんなことを考えたのは、マーチとここまで喧嘩したのと同様、初めてだった。 食堂に行く為に、自室のドアを開ける。すると、今一番顔を合わせたいが、同時に顔を合わせたくもない人物と出会った。 いきなりのことで驚いたのか、彼女と目が一瞬合うが、すぐに逸らされる。横を抜けられそうになったものの、何とか遮ることが出来た。 ついさっき、もう仲が修復されることはないと考えた身にも関わらず、私は何とか仲直りしようと試みていた。私は口を開こうとし、 それより早かったマーチの言葉に、体が冷たくなっていくのを感じた。 「邪魔」 その一言で十二分に用は足りた。 マーチの肩を掴んで、彼女の動きを止めていた腕が、力なく垂れる。立ちつくした私の横を足音と気配が過ぎた。彼女が去って行く。 振り向いてその背に声を掛けも出来ずに、ただ私は、呆然と立っていた。その内に私は猛烈な喉の渇きを覚えた。ふらふらと食堂に行き、 冷水をコップに二杯飲んだ。食堂には、ほぼ誰もいなかった。何人かの兵士はいたけれど、彼ら彼女らはそれぞれのことに忙しく、 私に気付いてもいない様子だった。私はまた、疲れている訳でもないのに重い足を引きずりながら、部屋に戻った。 一人には大き過ぎるベッドに、うつ伏せに倒れ込む。余りに私がマーチの部屋でだらだらするので、たまには逆の立場になれと言われ、 取り敢えずまずは寝台からサイズを揃えたのだ。マーチは普段の寝相こそ普通なのだが、暑かったりするとあちこちに転がり回るので、 キングサイズのベッドが必要だった。暑がった彼女に、何度腹部を蹴飛ばされたか分からない。ベッドの上で、大の字になってみる。 両手を目一杯に広げても、端には届かなかった。顔を上げると、二つの枕。カバーに付いているジッパーの根元に赤い染みがあるのが、 マーチの枕だ。以前、ここで一夜を明かした日の朝、ベッドの中で食事を取っていた時のことだが、彼女がナンセンスなことを言って、 私に突っ込ませた。それで彼女が笑い、その弾みで彼女のフォークから、ケチャップのたっぷり付いたスクランブルエッグが落ちた。 勿論、落ちた先はマーチの枕で、私は彼女を何度もからかったので、終いには、機嫌を損ねたマーチにフォークで手の甲を軽く刺された。 首を捻って顔を横に向ける。ベッドサイドの引き出しの上に、写真立てがある。写真を見てしまう前に、手を伸ばしてそれを伏せたが、 実物を見なくとも、何が写っているかは思い出せた。かなり前に、仕事先が紛争地域で、不運にも巻き込まれてしまったことがあった。 命からがら帰って来た後、装備だの銃だのをしっかり持ったままソファーで肩寄せ合い、互いの頭をもたれさせ合って眠っている、 私と私の親友が、その写真には写っているのだった。写真を撮ったのはメイお姉様で、彼女は無頓着に焼き増しの依頼に応じたので、 一時期にはマーチと私の部下たちの私物に、半ば絶対と言っていいほど、この写真が含まれていたことだ。 再び、顔を伏せる。鼻の頭をシーツにくっつけて、伸ばした両手の先から、全身までの力を段々と抜いていく。 「本当に、私一人には、大き過ぎますわ……」 応える者のない呟きが、余計に私を淋しくさせた。目を閉じる。眠ればその間だけは忘れられる。ぬるい水の中に沈んでいくような感触。 やがて淀んだ私を、水中から引き上げる、ノックの音。 * * * ふと気付くとマーチは椅子ごと後ろに倒れていた。 * * * 頭がじん、と痛んだ。天井で、明かりがその役目を果たし続けている。薄黄色の穏やかな輝きは、それでも今の自分には強すぎた。 周りをぺたぺたと叩いて、リモコンを探す。近くに落ちているだろう。果たしてそれは見つかった。ボタンを押すと、光が失せる。 完全ではないが、それにほぼ等しい暗闇が辺りを包んでいる。私は今しがた起こったことを思い返した。 フェブラリーが何かを言おうとし、私はそれを言わせず、意図して彼女から言葉を奪った。瞼に焼きついたように彼女の表情が離れない。 単なる傷心の表情なら耐えられた。裏切られた、とか、そんなことがある訳が、という驚きの表情なら、鼻で笑いだって出来たろう。 彼女のあの顔が、こんなにも刻みつけられることはなかったろう。 フェブラリーは、無論、先述の感情をも匂わせていたが、それよりもむしろ、ああ、やっぱりそうか、という諦めを見せていたのだ。 本人がそれに気付いていたかどうかは知らない。気付いてないだろうとは思うけれども。 その表情は、泣かれるより、よほど堪えた。遅効性の毒薬のようなもので、不意に鎌首をもたげるのだ。 私が空虚な時間を持て余した時、日々の雑務を片づけている時、食堂で炭酸飲料を飲もうと思って部屋を出て、 今夜辺りフェブラリーが来るかもしれないから何か新しいお菓子でも、と考えた時。 私は自分が何をやったのかを知っていた。何がいけなかったのかや、私が悪いことも知っていた。 多分私から謝れば、表面上は解決することも分かっていた。そしてそうするべきなのだろうということもだ。だが私にその気はなかった。 私はこう信じていた──壊れるなら壊れてしまえばいい。砕けるなら砕けるに任せればいい。折れるのなら折りもしよう。 私とフェブラリーとの関係が絶えるなら、あえて手を出してその結果から逃れようとは思っていなかった。 どころか、いっそ終われと感じていた。しかしフェブラリーの顔が脳裏にちらつき、彼女が私の部屋にいた時のことがやけに思い出され、 何より、私が兵士たちを自分の召使のように扱い始めた頃から、もしくは正確を期すならそれよりもう少し前から感じていた心の痛みが、 一秒ごとに、その存在を強く主張するようになっていた。フェブラリーのことを想うと、痛みは激しくなる。 だから、出来るだけ考えないようにするのだが、そう簡単に行くことでもない。 何故こうなってしまったのか、私は知っていた。それを説明するには、私とフェブラリーが喧嘩する何日も前に遡る必要がある。 当時、私は仕事がなく、暇だったが、休暇だからゆっくり骨休めでもしようと考え、思うがままに過ごしていた。 が、フェブラリーは忙しく働いていた。私に彼女の変調は感じ取れなかったが、ある日、彼女は私に、悪意のこもった皮肉を投げつけた。 具体的な言葉はどうでもいい。私は癪に触るより吃驚した。思いの外に彼女がストレスを溜め込んでいると、やっと分かったからだった。 私はその場で彼女の仕事を手伝う提案をしたが、彼女はこれにも皮肉で返し、相手にしなかった。 その日から彼女は輪を掛けて忙しくなり、フェブラリーは私に皮肉や嫌味を言うことも出来なくなった。 と言っても、彼女が私にそんなことを言ったのは、これまでの生涯の中で、食堂での一件の時だけだったが。 断られた手前、私は仕事を手伝えもせず、毎日疲れを蓄積していく彼女を見ているしかなかった。 手垢のついた言葉ではあるが、楽しいことを倍に、苦しいことを半分にして分かち合うのが、友人というものだ。 私はフェブラリーを親友だと思っていた。本当のことだ。私が彼女に替わる誰かを見つけることは、この先、ずっとないだろう。 彼女が苦しんだ時には、私にも同じ苦しみが与えられて欲しかったし、彼女が喜んでいる時は、ただそれだけで心が温かくなった。 私は、一体どんなに多くの者が、彼女が私と二人だけでいる際に見せる実に多彩な感情を、実際に見たことがあるだろう、と思っていた。 だから、彼女に頼られなかったその日、私は失望した。私たちは親友でなかったのか、と。苦楽を分かち合うのではなかったのか、と。 忙しいことは知っていたので、フェブラリーと過ごす時間を穴埋めする為に、私は兵士たちを使った。彼ら彼女らには悪いことをした、 と思っているが、兵士たちと接している間は、私は十二姉妹の一員としての顔を演じることが出来、個人の感情を排することが出来た。 為に、私は日が経つに連れて、筋の通らない理由でも兵士を使うようになり、それが最終的にはフェブラリーとの喧嘩に発展した。 痛い。締め付けられるようだ。私は倒れたまま、右胸をぐっと押さえた。かつてない痛み。私はこの痛みに降参の白旗を掲げた。 そうだ、後悔している。私はフェブラリーと喧嘩をするべきではなかった。和解の機会を自ら潰すような真似をするべきではなかった。 だがそんなことを今更認めたからと言って、私は彼女に謝ることは出来ない。彼女は優しく、今はストレスからも解放されている。 私を快く許してくれて、これまでの態度については水に流してくれるだろう。で、その後、私の態度の理由を知りたがる。 言える訳がない。この期に及んで、まだ私の無意味な自尊心は、自分の心の内を晒すという恥を恐れていた。 立ち上がり、床に転がったリモコンを拾って、明かりをつける。フェブラリーと、またこの部屋で過ごせたら。どんなに、嬉しいだろう。 時計を見る。ジューンと会う時間だ。彼女はあれで、聡く、強引なところもある。真っ先に私とフェブラリーの間の出来事に気付いたし、 原因だって大体のところは当てて見せて、私を驚かしめた。服を叩いて埃を落とし、部屋を出る。会う場所は彼女の部屋だ。 そう広くないこの艦の中──とっとと行かないと、誰に出会うか分かったものではなかった。 * * * 苦手な相手が現れたのでエイプリルは眉を曇らせた。 * * * 「あなたの執務机からは紅茶のいい匂いがするのですね、エイプリル。それはそれで、とても趣があって、いいのではないかしら」 「……皮肉と嫌味は書類でそこの書類入れ、公的な話ならここで手短に、私的な話なら、あちらのテーブルでゆっくりお相手しますわよ」 ジュライは、では後で書類を持って来ます、と返し、紅茶がこぼれたままの私の机を一瞥して、『あちらのテーブル』を親指で指した。 ハンカチで机を拭い、香り立つそれを残して、小さな丸いテーブルのところに行く。ホストが来るまで椅子に腰掛けないというマナー、 それは基本的なものなのだが、ジュライに守るつもりはなかったようだ。彼女は私が迂闊にもこぼした紅茶を拭い終わるまでの間に、 どうして片付けた場所を知っていたのだろう、お茶と茶請けの菓子を出して、用意していた。これではどちらが主人なのか分からない。 しかも出されたのは緑茶だった。私が緑茶よりも紅茶を好むことを分かっていての嫌がらせか、さっきまで紅茶は飲んでいたからなのか、 ジュライという女は分かりにくい妹である。良く物事を見ており、細かいことに気付くだけの経験や観察眼を持っていながらも、 何かの制約や立場に縛られることや、お母様を除く誰かに命令されるのを好まない、子供のような一面も持っている。不思議な性格だ。 が、私はそんな彼女も嫌いではなかった。私の指示に従わないことがある点と、私を呼び捨てにするところは頂けないけれど、 それを抜きにすれば第一世代以外では最も頼りになる。やはり私にとって最後に頼る親友は、メイ一人しかいないので、この順位だが。 まあ、彼女はそういった順位付けも嫌うだろう。私は茶菓子の煎餅を一枚取り、適当な大きさに割って口に入れ、ぱり、と音をさせて、 咀嚼した。紅茶とクッキーなら私の姿も、それなりに見ることの出来る様子だったろうが、いかんせん湯呑と煎餅ではしっくり来ない。 だがジュライは、不思議とその服装や肌の色にも関わらず、似合っていた。立ち居振る舞いの違い、だろうか。私はさっき取った煎餅を、 残らず嚥下し、口の中に残った欠片を茶で流し込んでから、話を切り出すように言った。でなければ、ジュライはいつまでもここにいて、 お茶を飲んでは煎餅を摘まんでいただろうからだ。それが彼女の面倒臭いところで、自分から話を持ち込んでも、相手から促さねば、 語ろうともしないのだ。但し聞くところにおいては、かくの如き面当てを行うのは、私の前においてのみだ、ということでもある。 珍しく、一度の督促で彼女は話を始めた。いつもだったら、もう少し粘ろうとするのだが。 「話というのは、最近の仕事についてです。どうも、フェブラリーばかりに割り当て過ぎではありませんでしたか」 「あら、いつから労働基準の監督官に転職しましたの? 辞表は二週間前までに出しておくのが一つの礼儀というのは、御存知かしら」 「今回だけは当て擦りも毒舌もなしにしましょう。呼べと言うならあなたをお姉様とも呼びましょう。真面目に話を聞いて欲しいんです」 私は面食らい、そして彼女が本当に誠実な対話を求めていることを了解した。彼女は同じ質問を私に対して繰り返し、返答を求めた。 「確かに彼女をこのところ忙しくさせはしましたが、それに問題があるとは思いませんわね。彼女にしか任せられない仕事でしたし」 「では、少し前から、フェブとマーチの間に起こっている問題を知っていますか? あの二人の関係は、非常に悪化しているのですよ」 あの二人が? まさか! 私は最初、ジュライの下らないことを言う口を塞いでやろうかと思った。しかし、彼女は本気らしかった。 だが考えられないことだ、こともあろうにフェブラリーとマーチが、私とメイのように、或いはジャニアリーとセプのように、 極めて親しい二人が、仲違いをするなどということが、どのような原因の元で起こるだろうか。私には想起しがたい。何かの間違いでは? ジュライは首を振った。縦ではなく横にだ。それで、私は彼女が真実を語っていると確信した。これは二度も言うような嘘じゃない。 なら、あの二人は実際に揉めているのだろう。ただ軽い口喧嘩のようなものでなく、ジュライが私に話して来るほどに深刻に。 「彼女たちの不和の原因がフェブラリーの多忙にあると、ジュライ、あなたは言う訳ね。だから、仕事を回した私を責めようとしている」 「誤解ですね。私があなたを苛々させたり腹立たせたりするのは、エイプリル、単なる私の趣味の一つで、今回のことと無関係ですから」 「当て擦りも毒舌もなしなのでは?」 「それはあなたからの毒舌に関して言ったことで、私の減らず口については別件ですので」 私たちは穏やかならぬ視線を交わした。それから変わらないタイミングで互いに目を伏せ、茶を啜った。ぬるくなってしまっていた。 こんなことをしている場合ではない。ジュライは癇に触るものの言い方をするが、姉妹間の決定的な亀裂が生まれることを避けようと、 私に相談を持ち掛けたのだ。彼女は十二姉妹のことを慮ってここに来た。私は、その心情へ、可能な限り真摯に対応せねばならない。 ジュライが、私と視線を交錯させた時から上がっていた瞼を下ろし、いつもの開いているのか閉じ切っているのか分からない目に戻った。 名を呼ぶと、彼女は顔を上げた。取り敢えず、聞いておくべきことを聞き、行うべきを行っておかなければならない。 「あなたがフェブラリーの多忙が原因であるとする理由を教えて欲しいわね。でなくては、どう動くことも出来ないから」 「道理ですわね。勿論、お答えします。まず喧嘩が始まった直接の原因ですが、フェブがマーチに、生活のことで注意をしたそうです。 何でも、兵士たちを限りなく私的な目的に従事させ続けたそうで、それを正させようとしたところ、口論になったとか。 その後マーチはフェブラリーを無視、何度かフェブが関係を修復しようと試みたものの、全て失敗しています」 「で、どうしてそれがフェブラリーの多忙に関係するんですの?」 成熟した精神を持っているものだから、分からないんでしょうね。と呆れ顔で彼女は言葉を続けた。 「マーチは人を食ったような性格をしていますが、その癖、寂しがり屋なんです。でも今言った通りの性格ですから、気の許せる相手は、 しかも、いいですか──対等な関係を保ったまま気を許せる相手は、ですよ──フェブラリーしかいない。その彼女が酷く忙しくて、 自分に構って貰えないとなると、ストレスは溜まりっ放しになる。その発散に、兵士たちはきっと喜んで付き合ったでしょうね。 けれど、それも一時凌ぎにしかならない。ストレスは蓄積する一方。そこに仕事ばかりしている親友がやって来て、自分を叱る──と」 「逆恨みね」 「はっきり言わせて頂くとですね、そんな物言いを平気で出来るから、マーチにお姉様と呼んで貰えないんですよ、あなたは。 オーガストやオクトたちがいるものだから忘れがちですが、第二世代もまだ子供なんです。子供は感情が暴走しがちなものですよ」 その第二世代の中に、ジュライ本人も入っているのだが、私はそれを敢えて指摘する気にはならなかった。したところで意味がない。 もう一回、私は彼女の名を呼んだ。彼女は応えた。大体のことは分かったのだから、私にやれることを精一杯やろう。 「メイとジューン、それにセプに連絡なさい。すぐ私の部屋に来るようにと伝えてくれれば結構ですわ。あ、それと、オーガストにも。 それから、あなたはジャニアリーと三つ子が何かしないよう監視。あの子らは変なところで勘がいいから、しっかり気を付けてなさい。 監視は、三つ子はセプに、ジャニアリーはメイに引き継がせますから、彼女たちがそれぞれその任務に就くまでの間だけ、頼みます」 「いいでしょう。使いっ走りは気に食わないところですが、事態が事態ですし、仕方ありません……では」 席を立って戸口まで行った彼女の背中に、声を掛けた。聞いておかなくてはならないことがあった。 「しかし、意外ですわ。あなたがこんなことを気に掛けるとはね。どういう風の吹き回しですの?」 彼女は足を止めて、振り返った。 「何かと思えば、そのことですか。まあ私も、お母様がこれを知った時にどう思うか考えなければ、相談などしなかったでしょうがね」 やはり。私は自分の予想が当たったことを嬉しく思った。私たちのお母様、マダム・マルチアーノはこの残念な事態を知らないのだ。 「そう、それが問題ね。その言葉からすると、お母様はこのことを御存知ない様子……態々、心痛などを起こさせる必要もないでしょう」 「その通りですわ。出来る限り、秘密裏に、迅速に。こんな面倒ごとは早々と片付けて、笑い話にでもしてしまいたいものです」 * * * ジャニアリーは足音に慌てて逃げ出した。 * * * 曲がり角を何本かと、階段を幾つか駆け上がったり駆け下りたりして、やっと私は一息吐いた。そうして、ぐい、と額の汗を拭った。 凄いことを聞いてしまった、と感じた。フェブとマーチの様子がおかしいのは気付いていたが、軽い喧嘩程度だろうと考えていたのだ。 幾ら何でも、そこまでマズい状況になっているとは想像だにしなかった。というか、こんなことを聞いてしまうとは思わなかった。 たまには仕事中の不機嫌な長姉の顔をもっと不機嫌にしてやろうと、彼女の部屋の前まで行った時、中から漏れ聞こえて来た会話は、 私を不徳に誘い込むだけの力があった。本音を言えば、最初はエイプリルとジュライが二人で部屋にいたので興味を持ったのだが、 耳に飛び込んで来たのは驚きも驚きの話題であった。怒りたくなる内容も混じっていたが(私がどうして監視されねばならないのか?)、 どうしてこの問題を放置していられるだろう。知らねば私は知らぬまま過ごしていただろうが、知ってしまった今となっては、最早、 解決の為に尽力するしかない。ジュライの情報源を考えてみる。ピンと来るのはジューンだ。最近、フェブに代わってマーチの傍にいる。 ジュライとジューンは仲がいい。正確にはジューンは皆と仲がいいが、この際正確さは忘れよう。ジュライはマーチに友達がいない、 と言ったが、ジュライにだって友達は少ないだろう。これもまた、彼女がマーチに言ったのと同じで、何しろまあ、あの性格だからだ。 そんな具合だから、ジューンをマーチに取られていると、気に入らない。そこでエイプリルのところに行き、洗いざらいぶちまけた、と。 すると情報ルートはこうだ。『マーチ→ジューン→ジュライ→エイプリル→メイ、セプ、恐らくオーガスト』。大本はマーチとなる。 これは頂けなかった。何と言っても、あのマーチだ。意地っ張りで、捻くれ者であり、ジュライが言った通り寂しがり屋でもある。 そこへ行くとフェブラリーからの情報ルートは、信頼出来るし、それにマーチ以外の関係者の陳述があれば、公平性も確保出来る。 彼女が喜んで話すとは思わないが、聞き出さないでいても、彼女や私たち他の姉妹にとって、何の得にもならない。どうにか話させよう。 意気込んで私は彼女の部屋に行った。ジュライが本格的に私の監視に動き出す前に、少しだけでも話を聞いておかなくてはならない。 ドアをノックする。応答なし。更にノックする。か細い声が室内から何事かを訴えたので、私はノックを止めた。間もなく、戸が開く。 素早く足をドアと壁の隙間に滑りこませ、閉められないようにした。が、フェブラリーはすんなりと、むしろ自分から、私を中に通した。 奥へと案内する彼女の頬に涙の跡を見つける。泣いていたのだ。妹が泣いていることを、辛く思う。その涙がもう流れないように願う。 次に流される前に、フェブとマーチが仲直り出来るように、願う。フェブラリーは私に椅子を勧め、自分はベッドに腰を下ろした。 憔悴している。部屋は薄暗いが、一目でも見れば分かった。どういった用件なのかを問われ、言葉に詰まる。開いた傷を抉りかねない。 フェブラリーに話を聞くなら、その覚悟を持たなければならない。彼女を余計に傷つける覚悟をだ。その上で、彼女を助ける覚悟をだ。 苦労したし時間も掛かったけれど、私はそれを持った。 「マーチと喧嘩しましたわね、フェブラリー」 彼女は身を震えさせた。彼女は瞬きを繰り返し、忙しなく眼球を動かした。 「別に、そんなことは」 「さっきまで泣いていたのでしょう、涙の跡が残っていますもの」 急ぎ袖で拭うが、見てしまった後だ。フェブラリーは自暴自棄な笑みを浮かべた。もうどうにでもなってしまえばいい、という風の。 私はそういう表情が大嫌いだ。思わず彼女の姉として怒りそうになったが、堪える。私はここに、怒りに来たんじゃない。 「はい、そうです、お姉様。その通りです、そうなんですよ。私はマーチと喧嘩をしたんです。私は嫌われ、無視されています。 それが何だと?」 「話して欲しいんですの。どうしてそうなったのか、あなたの思うように。何があったのか。マーチの兵士の扱い方を注意した時に、 口論になったのが直接の原因だと聞いていますわ。けれど、その他にもきっと予兆や、遠因があったのに違いないと、私は思うんです」 「話せ? あの子から最後に聞いた言葉を思い返すだけで、私が一体どんな気持ちになるか、分かりますか、お姉様に。 あんなに冷たい声音で、邪魔だ、と言われたら、どんなに胸が潰れるような痛みが襲って来るか、分かるというのですか、お姉様に!」 残念ながら私の堪忍は物凄くあっさりと終わった。私は椅子を蹴立てて立ち上がり、呆気に取られたフェブラリーをベッドに突き倒した。 彼女の胸倉を掴んで、起き上がれなくする。彼女はこちらを睨んで何か言おうとしたが、私の言葉が彼女よりも早かった。 「いい加減になさい! あなたのことですのよ、フェブラリー、他の誰でもないあなたのことですのよ! どうして言えませんの? 仲直りして、前みたいに遊んだりしたくないと言うのなら、私はもうあなたたちに世話を焼こうとも思いませんわ、どうですの!」 私の激怒に、フェブラリーは怒鳴り声で応じた。その彼女の言葉がまた、私の怒りに油を注ぐのだった。 「分かりなんてしない、言ったところで何にもならない! あの子は私の言葉なんて聞いていない、私の感情なんて気に掛けてもない!」 「そうやって言い訳をする! 友達を失うか、失わずに済むかですのよ、フェブ! 確かにどうにかなるか、私にだって分かりませんわ。 『でも、しなければ可能性はゼロだ』などと言う気もありません。ただ聞きますわ。あなたにとって、マーチはその程度の存在ですの? 仲直りしたいとは、もう思っていませんの?」 「私にとっては違うわよ! けど、マーチにとって私はその程度の存在だった!」 そう言って、急に彼女は沈静化した。涙が幾筋も瞳からこぼれて、ベッドに吸い込まれる。彼女は泣きながら、子供のように訴えた。 「私だって仲直りしたいわよう。マーチに嫌われたままは嫌よう。でも、きっと無理って分かってる。元通りになんてならないって。 だってマーチは、私を見てもくれないんだもの! なのにどうすれば、何をすればいいって言うの、お姉様に泣きつけばいいとでも?」 「ええ、泣いて縋りなさい、頼ればいいではありませんの! 私はあなたの姉、あなたの親友マーチの姉なのですわよ!」 そうだ、彼女は頼っていい。泣きたい時は言ってくれれば、いつでも彼女の為に胸を空けよう。一人でこんなことに対処する必要はない。 私の手を借りればいいじゃないか。エイプリルの手や、メイやジューンやジュライの手を借りればいいではないか。差し出さぬ者はない。 妹が、または姉が苦しい時に、手を差し伸べぬ姉妹などありはしない。もしあったとしても、それが十二姉妹であることだけはない。 私はフェブラリーを抱き締める。一人で何とかしようとして、殆ど擦り切れてしまった、可愛い、馬鹿な妹。何としても助けてみせる。 フェブもマーチも、救ってみせる。彼女たちほど仲のいい二人が、和解し合えないなどというふざけた未来があって良いものか。 妹は私に抱きついて、数分の間、泣いていた。泣き終えると彼女は顔を離したので、私は彼女から離れ、身を起こすのを手伝ってやった。 彼女を見る。目元は散々泣いた後の腫れぼったい感じになっていたが、フェブの目は、ここに私が来た時と違う、意思ある者の目だった。 嬉しく思う。私は彼女が完全に落ち着くのを待って、彼女が知ること全部を教えてくれ、と頼んだ。彼女は躊躇いを見せつつも、頷いた。 それで、話を聞ける筈だったのだろうが、私は色々と声を荒げ過ぎた。フェブもだ。近くを通った兵士からエイプリルに連絡が行き、 私の監視をする任務を仰せつかっていたメイが素っ飛んで来た。彼女は荒いノックをするや、ドアを開けて入室し、私を見つけると、 問答無用で部屋から引きずり出そうとした。そうされなかったのは、偏にフェブラリーの口添えがあったからだ。 しかして、私とメイは、フェブラリーの側からの説明というものを知ることになった。 * * * 話を聞き進める内、メイは浮かない顔になった。 * * * アタシは初め、エイプリルの説明を聞いた時、マーチが全面的に悪いのだとばかり思っていた。そりゃ、寂しかったのは分かる。 自分だって、もしも親友が忙しく働いてて、ちょっとした会話もないままに一週間二週間経てば、いい気持ちにはなれないだろう。 だけど、フェブの話を聞く限り、こいつはそんなに単純な話じゃあないらしいと分かった。何せ、苛々の発端はフェブ自身だったのだ。 彼女は簡単には言葉が出て来ないのを、何とか捻り出しつつ、アタシとジャニアリーに語った。聞けば聞くほど、げっそりする話だ。 マーチが、忙しく働く彼女の親友を手伝おうとした時、跳ね付けたこと。その時に悪意を含んだ言葉を、一瞬の勢いとはいえ、 彼女に投げ掛けてしまったこと。聞いたのが全て事実であり真実だとするならば、マーチはそれ以降から、兵の私的利用を始めている。 と、すればだ。今、こうなってしまっているのは、マーチでなくフェブが原因だということになる。これは、実に厄介なことだった。 完全なマーチの逆恨みなら、説得する手も考え付かないではない。捻くれ者ではあるが、だからこそ道理も人一倍弁えているのが彼女だ。 だがそうではなかった。逆恨みでなく、悪意をぶつけられたショックを癒す為の行動に、悪意をぶつけた本人が難癖をつけたのだから、 この現況は順当であると言うべきだった。無論、そうであったとしても、マーチが取ったのは正当で筋の通った行動などではないのだが。 「考えを改めなくっちゃならないな。マーチの説得だけじゃ駄目だ、そもそもアタシらの説得なんか意味がないだろうよ」 「そうね……思ったより、厄介ですわ。まずは彼女が、フェブラリーと向き合えるようにしなくてはなりませんもの」 つまりアタシたちはお膳立てまでしかしてやれない。最後の最後、本当に大切なところは、フェブラリーがやらなくてはならない。 そこまで持って行くのすら難しいのだが、やってみれば何とかなるだろう。アタシは一々迷ったりするのが好きじゃない。 さて、ここで作戦会議だ。ジャニアリーは引き返せないところまで首を突っ込みやがったので、渋々だが手を組むことにする。 どうすればいいか? マーチはフェブラリーを徹底的に避けている。フェブラリー本人から聞いたが、そりゃあもう、凄いもんだ。 半端なやり方じゃ、傷と溝を深くしてしまうだけだろう。そこで、マーチをまずどうにかして素直にさせる。そこにフェブを連れていく。 簡単に言ったが、全くのところどうやったらいいか分かりもしない。普段素直じゃない奴を、どうやってこの条件下で素直にさせるんだ。 アタシやジャニアリーが筋の通ったことを言っても、彼女なりの道理で動いているマーチは、こっちの言葉を受け入れはしないだろう。 では、働き掛け方を変えてみよう。これは昔も昔、大昔から良く言うことだが、押して駄目なら引いてみろ、である。 こちらから何か話させようとするのでなく、あちらが口を開くのを待つのだ。ジューンがこれには適任だろう。 繊細で、余裕があり、慎重だ。軽率なことはするまい。それに彼女は、今のところ唯一、マーチと自然に話が出来る。 マーチが話す内に自ら態度を軟化させてくれればしめたものだし、そうならなければそうなるようこちらで誘導してやって、 最終的にフェブラリーと話し合うことを受け入れてくれれば、後は二人の問題である。不安なのは、マーチが何処までへそ曲がりか、だ。 我が妹ながらあれは相当の偏屈者だから、中々折れてはくれないだろう。するとお母様が感づいてしまう。それだけは回避したい。 こんなことでお母様に心配させたくはないし、姉妹の関係について落胆されたくもない。全く、マーチもフェブも、やってくれたものだ。 「オーケイ、まずジューンと連絡を取ってみよう。あいつから直接話も聞いてみたいからな。ジャニアリー、呼び出しを頼む」 「了解。呼び出してみます……繋がりましたわ。ええと、今はマーチと食堂で飲み物を飲んでいるけれど、数分でこちらに来れると」 「ここ? おいおい、この部屋はヤバいぜ。もしジューンがフェブの部屋に来たと何かで知ったら、マーチはジューンを遠ざけるだろう。 ジュライの部屋に来るように、って指示しておいてくれ。あいつの部屋に行く分には、マーチだって疑いやしないだろうからさ」 ジャニアリーは頷いた。それじゃ、アタシたちも移動しておこう。マーチは食堂にいる。なら少なくとも、見られることはないって訳だ。 扱いにくい妹に通信を繋ぐ。彼女は何か考え事をしているのか、それとも誰かと話しているのか、ロクに返事もせずに入室を承諾した。 連絡が遅くなってしまって悪かったな、と謝って、接続を切る。部屋を出る前に、フェブが周りに姉妹兵がいないかを確認した。 どういう訳か人の目というのはないと思ったところにもあるもので、確実な証拠がなければ大抵の場合、誰かは自分を見ているものだ。 廊下に出て、そそくさと妹の部屋に向かう。鍵が掛かっていた。通信でその旨を伝えると、中から扉が開き、ジュライが現れた。 「どうぞ、こちらに。エイプリルとオーガストが待っていますよ」 案内されるまま、彼女の私室に入る。どんなものかは分からないものの、香が焚いてあるようで、何処からか品のいい香りがしていた。 彼女が言った通り、親友と妹は椅子に腰掛けて待っていた。アタシ、ジャニアリー、フェブ、エイプリル、オーガスト、ジュライ。 それに──ああ、今、ドアが開いた音がした。合鍵でも持ってるんだろう、ジューンが入って来た。随分と大所帯になったものである。 「すまない、待たせてしまったかな、皆」 「いいえ、ジューン。丁度いいタイミングだと思いますわ。さあ、ここに座って」 ジュライが主人らしく椅子を勧め、ジューンはそこに腰を下ろした。さて、とエイプリルが言葉を発し、湯呑を脇に動かした。 紅茶のカップなら決まってたんだろうが……いや、止そう。同じことをエイプリルは、アタシより早く、より強く思った筈だからだ。 「フェブラリー、ここに来た理由は分かりますわね? あなたには辛いかもしれないけれど、あなたの口から、顛末を聞きたいんですの」 長姉の言葉に、彼女は語った。二度目だったので、大勢の前でも、幾らか話し易かったようだ。つっかえることなく、彼女は話し終えた。 話し終わって、真っ先に、ジューンが発言した。これはマーチの話を聞いている唯一の者として、当然のことと見なされた。 「まず、私はマーチから口止めを受けていることを説明したい。フェブラリーには言うな、と言われている」 眼鏡の下の瞳を濡らしそうになって、フェブラリーは俯いた。ジューンは前を向いたままで、発言を続けた。 「しかし、フェブに聞かせるな、とは言われていない。そういう訳だから、もし私が何か言われた時には、擁護して欲しい。 それでは結論から話そう。マーチは自分の行動を後悔しているが、プライドが邪魔して謝れないでいるようだ。仲直りは可能だろう」 フェブの顔が輝いた。そこからの話は割愛するが、アタシたちは有意義な情報交換を行った。特に重要なのを抽出すると以下の通りだ。 ・マーチは喧嘩したことを後悔している。こいつは凄く重要なことだ。仲直りするのには、とても沢山必要になる気持ちだからだ。 ・マーチの自尊心が、謝罪を妨害している。これは面倒だった。えてしてつむじの曲がった人間は面目というものを重視するものである。 ・マーチはジューンに全てを話している訳ではない。協力の申し出を断られたことを話していなかった。これも、自尊心のせいだろう。 ・マーチはフェブラリーと仲直りしたいと口にしている。何よりもいい情報だった。これぞプライドを曲げて出て来た本心っていう奴だ。 アタシたちは彼女のことを話し合った後、皆で緑茶を啜りつつ、雑談をした。心配で疲れた心を癒してくれる、とてもいい薬だ。 その中で、三つ子の話が出た。噂好き、悪戯好き、考えなしの三拍子揃ったトラブルメーカー、オクト、ノヴェ、ディッセ。 「三つ子には知られないようにしないと……軽い気持ちで、取り返しのつかないことをやりそうですわ」 「あ」 ジャニアリーが言うと、フェブが表情を変えた。 「え?」 「その、ジャニアリーお姉様が私の部屋にいらっしゃる前に、三人が来て、励ましてくれるものだから、それでついうっかり」 エイプリルは額を押さえた。ジャニアリーは頭を抱えた。ジューンは目を覆い、ジュライは軽く引きつり、オーガストは帽子を落とした。 そこに、セプから三つ子を見失ったという通信が入って来て……ああ、洒落にならない。 * * * 三つ子たちは悪戯っぽく笑顔を浮かべた。 * * * 「ディッセ、セプは? 気付いてない?」 「うん、向こうで探してるみたい。でも、そろそろセプも連絡入れるだろうから、皆で探しに来ると思うよ」 「それじゃ、打ち合わせ通りだよ、ノヴェ。ノヴェが本命なんだから、一番頑張ってくれないと!」 オクトの言葉に、ノヴェは大きく頷いた。顔を見合わせ、タイミングを目と目だけで計って、隠れ場所から飛び出した。 その時に起こった小さな足音を聞きつけて、セプが声を上げる。三人は敢えて彼女を引き付けておいて、四辻に至って、三方に分かれた。 だが世話係もさるものであり、左右に曲がろうとして速度を落とすことは避けて、真っ直ぐに逃げた一人、ディッセを追った。 それが三人の仕掛けだった。セプならば、さんざやり込められた経験から、そういう選択をするだろうと考えたのである。 ディッセは廊下を走り続けた。姉妹兵たちが、何事かと振り返りもせず、ああ、またかといった風に、末妹とその姉の進路から退く。 中には隊に入って日の浅い新兵も一人や二人はいて、話に聞いていた恒例行事とはこのことかとばかりに、遠慮なく見ていたものの、 そのように注意力と想像力のない若者たちは、容赦なくディッセに腕を引かれてたたらを踏み、セプ妨害の道具としていいようにされた。 洗濯当番の兵士が、廊下の向こう側から、カートを押してやってくる。悪戯な末妹の目が光り、当番兵が戸惑い、周りを見渡そうとした。 カートが当番の手から奪われる。洗濯物を撒き散らし、回転しながら、セプに向かって突っ込んで行く。兵士たちは異常に気付いた。 普段なら、ただ逃げるだけか、妨害にしてもうっかり者の兵士の手を引いて盾にする程度だったのが、今回はその余裕が見えない。 僅かでも長く時間を稼ぎ、少しでも遠くに逃げようとしている様は、追う側のセプをして、疑わせしめた。 それに余裕のなさを持ちつつも、同時にセプを撒けそうになるとディッセが速度を落とすことを、世話係は見て取った。 まさか、ね。と彼女の深奥で小さな怪訝の念が生まれる。が、姉はそれを押し込めて、末妹を追い続けた。 ──オクト、そっちはどう? 私は大丈夫! ──こっちもOK! ジューンお姉様とジャニアリーお姉様ったら、とーってもからかい甲斐があるんだから! ──あーっ、いいなあ! セプはもうマンネリ気味だもんね。 末妹の不平を聞き流し、オクトは笑う。だが、その笑いや、通信で語った姉への評価は、必ずしも真実でなかった。 からかい甲斐はあったものの、セプと違ってスピード型のジューンは、直線通路になるとオクトを何度も捕らえ掛けたし、 ジャニアリーはゴム弾を装填しているとはいえ、P90を何の躊躇もなく、逃げる背中に発砲するという容赦のなさだ。 御すること容易な相手ではなかった。セプの話を聞いているせいで、罠をジャニアリーが良く看破することも、オクトを不利にした。 ただ、それは決して、想定外の点ではなかった。従って、オクトなりに対策も考えてあった。 真っ直ぐな通路になり、ジューンが足を早めるのを振り向いて確認すると、オクトは追跡者の予想を裏切って、傍の部屋に飛び込んだ。 ジャニアリーはすぐに罠だと見抜いたが、ジューンはそうは行かなかった。彼女の力では引きちぎれないワイヤーが、手や足や、 体のあちこちに絡み付く。ジューンは急いで、ナイフのワイヤーカッター機能を使おうとしたが、オクトに叩き落とされた上、 ナイフを奪われてしまった。そこに、もう一人の追跡者が突入して来る。オクトは見計らっていたようなタイミングの良さで、 身動き出来ないジューンをジャニアリー向けて突き飛ばした。想像を大きく脱したこの行動に、姉たちは対応すること叶わず、 二人して床に倒れこむ。オクトは彼女たちを尻目に、通路を駆けだした。彼女は油断など出来る訳がないと知っていた。 案の定、数秒としない内に、彼女の前に長姉と第三世代の一人が現れる。足を止めたオクトは、不敵に笑い、通信回線をノヴェに繋ぐ。 ──ノヴェ、エイプリルお姉様とオーガスト、ジューンお姉様とジャニアリーお姉様はこっちにいるのを確認したよ。 ──ディッセはセプ一人だったっけ。それで、フェブはきっと監視なんだろうから、いないのは、んっ、とー……。 通信で話し合う二人の後ろで同時に足音がして、彼女たちはやはり同時に(二人はそうとは知らなかったけれども)振り返った。 そしてオクトとノヴェは、それぞれ聞き、それぞれに伝えた。 「オクト、どうしたんだ? 今日は随分頑張ってるじゃないか。けどそれも」 ──……メイお姉様と。 「ここまでです、ノヴェ」 ──……ジュライお姉様、だねえ。 オクトはエイプリルとオーガストの二人の方に駆けた。ノヴェは誰もいない方向に逃げた。二人が求めたことは逃走であったけれど、 二人の行動の結果は異なっていた。まずオクトから行くと、彼女はエイプリルとオーガストの両方に、かなりの威力のタックルを当てた。 その勢いでオーガストの帽子は数メートルも飛んで行ってしまったほどだったし、エイプリルのヘッドドレスは紐が切れてしまった。 三人は床に並んで横倒しになり、一早くオクトが起き上がって逃げ出そうとしたところを、メイがあっさりと捕まえたのである。 三つ子の他の二人から本命と言われたノヴェは、その期待に大いに応えて、あのジュライにもう少し手間を掛けさせることになった。 彼女もこれまでセプの苦労話や愚痴を耳にはしていたのだが、ジュライはそれでも三つ子たちのことを見誤っていたのである。 その素早さ、その機転、その抜け目のなさを。つまるところジュライは、必ずしも責められるに値しないような彼女の不手際、不注意を、 何倍もの大災厄に発展させてしまったのだ。第三世代と言えど十二姉妹か、と考えて、ジュライはその評価そのものが慢心であること、 それこそ彼女を苦しめている原因であることに思い至り、根本から考えを変えた。ノヴェは掛け値なしに優秀で、捕まえるのは難しい。 しかも、本気で逃げている彼女を捕まえるのは、普段の悪戯で逃げている時の彼女を捕まえる、何倍も何倍も難しいのだ、と。 するとジュライの胸の奥に、むくむくと立ち上がるものがあった。それは姉としての矜持であり、同じ稼業の者としての矜持でもあった。 姉は腰から刀を外し、廊下に打ち捨てる。妹は疲れなど知らぬかのように、全力疾走を続けるが、その前方にオクトを親友に任せて来た、 エイプリルの姿を見つけ、横道に入る。と、オーガストがまたその行き先を塞ぐ。ノヴェは迷いを持たなかった。オクトが数分前に、 ジャニアリーとジューンに追い掛けられている際にそうしたように、部屋の一つに走り込んだ。オーガストは、長姉が来るのを待った。 一人では妹に太刀打ち出来ないだろうという、正しい判断に基づいていたこの行動は、しかし誤りだった。長姉とその信奉者は、 満を持してドアを開け、もぬけの殻になった部屋と、対面にある開け放たれたドアを見つけた。二人はまんまと騙されたことを知った。 オーガストが落ち着いて、フェブにノヴェの動向を聞いていればそんなことにもならなかったろう。ノヴェは賭けに勝ったのだ。 彼女の逃走が終わるのは、それから十分後のことになる。ジュライは長姉に先駆けてノヴェを視認し、追跡を再開していた。 さしものノヴェも、ここまで激しく逃げ続けるのは初めてだったこともあり、経験などにおいて長ずるところ多いジュライは、 残りほんの数歩という僅差まで、ノヴェに追いついていた。だからだったのだろうか、と姉は後で思い出しもしたものである。 オクトは捕まった。ノヴェは捕まりそうだ。……では、ディッセは? 逃げ回るだけ? そんなことは、考えるまでもなくありえない。 手が届くまで後一歩の距離を埋めようとしたジュライは、捕獲に気を取られ過ぎ、横から飛び出して来た小さな影への対応が遅れた。 オクトの体当たりは、長姉とオーガストを地に倒すに足りぬことないものだった。故にディッセの飛び蹴りじみた体当たりもそうだった。 末妹の後を追い掛けてきた世話係が、三つ子の内の二人が本命と呼んだ少女の目的地が、何処なのかということを直感する。 警備室──戦闘指揮所などとは別にある、日常生活の警備を担当する兵士たちの仕事場。しかし、そこには三つ子は立ち入れない筈だ。 悪戯の標的にされては困るから、というセプの進言で、彼女たちには電子錠を開けられないようにしたのだ。非常事態になった時にも、 三人揃っていればドア程度蹴破れるし問題ない、との考えもあった。だから、ノヴェがすんなりドアを開けたものだから、セプは驚いた。 扉の前まで来て、中を見ると、ノヴェがコンソール前にいた。警備兵たちは何が何だかといった様子で、わたわたしているばかりである。 「ノヴェ、今なら怒らないであげる。どうしてこんなことを今するのか、答えなくっても許してあげるわ。だから、こっちに、来なさい」 「やーだよっ、とっ!」 逃亡者は拳をコンソールに、ではなく、コンソール脇の赤いボタンに叩きつけた。警報が鳴り始める。セプは色を失い、中に入ると、 急いで警報を止め、押し寄せる確認の通信に応対を始めた。ノヴェはそれを逃げることもせずに眺め、間もなく長姉他数名が訪れると、 大人しくその監視下に入った。第一・第二世代の姉妹は怒り心頭であるか、もしくは仕事に忙殺されているか、或いはその両方だったが、 オーガストだけはそのどちらでもなかったので、ふと感じた疑問を彼女は素直に口にすることが出来た。それは根本的な質問だった。 「どうしてこんなことしたの?」 楽しいから! という回答が帰って来るだけとすぐに思って、オーガストは勝手に失望したが、それだけに返答は彼女の目を丸くさせた。 「ニルソン様がどうしてもって言うから、それに楽しそうだったし!」 * * * セプは溜息を吐いた。 * * * 三つ子の巻き起こした大騒動は、ニルソン様が仕組んだものだった、とノヴェが暴露した瞬間、私たち全員が瞬間的に唖然となった。 それで、問い合わせも少なくなって来たからと警備兵たちに仕事を返し、部屋を変え、オクトやディッセも呼んで、私たちは話を聞いた。 分かったのは事件の全体像と、どうして警報装置を稼動させたかの理由だ。幾つかの質問には、ニルソン様は回答を教えていた。 例えばこれ、メイの質問である。 「お前、どうして警報装置を稼動させたんだ、ノヴェ?」 「ん、ニルソン先生が言ってたよ。『他の姉妹に直接手を借りずにマーチの部屋のドアを開ける、唯一の方法だから』だって」 「あー、フェブとの喧嘩を知ってたってことかよ、そうすっと」 大体はこんな具合だった。話を聞くと、ニルソン様はマーチを説得するには、同じ姉妹より、自分の方がいいだろうと考えたらしい。 にしたって話を通してくれれば、と思いもしたが、僅かでも姉妹が介入することを避けたかったのだろう。オクトたちは……まあ多分、 マーチだってオクトやノヴェ相手に何のかんのと悪意を持ったり、猜疑心を強めたりすることはあるまいという考えであると思う。 実に道理だと感じた。私が行こうと誰が行こうと、彼女は心を開くかどうか分からない。フェブと仲直りを勧めたりすれば、特にそうだ。 でもニルソン様なら? 姉妹ではないが、姉妹と同じぐらいに固い絆で結ばれている(と私は信じている)彼なら、マーチの心を、 解きほぐしてやれるのではないか。そう思わずにはいられない。マーチが彼の言葉を跳ねつけるぐらい愚かでないと、私は信じていた。 彼女のことを想う。彼女の親友のことを想う。私の親友が私を嫌ったのではないかと思われるようになったら、どんなに苦しいかを想う。 そして私の親友が私に、嫌ってなどいないのだと伝えたいのに伝えられないでいる時、どんなに辛く苦しいだろうかということを想う。 可愛い妹たち。私の妹たちだ。喧嘩などして欲しくないし、したとしても仲直りして欲しい。この世に一人として代わりはいない家族だ。 陳腐な表現だが、真実であることの証左でもある。 「大丈夫かしら」 フェブラリーが呟いた。信じていても、不安は残るものだ。それが大切なものであればあるほど、失うことへの恐れは大きくなる。 取り戻せる希望が今、与えられただけに、その最後になるやもしれない望みが裏切られたら次はないのだと、思いこんでしまうのだ。 肩に手を置いて、ジューンが言った。 「きっと、大丈夫だ」 それで少しは落ち着いたようだった。誰かが何か一言、声を掛けてやるだけで良かったのだろう。誰かが、大丈夫と保証してくれれば。 安心し、目を別の方向に向ける。と、ジャニが私に合図しているのが見えた。聞かれたくないことを話すなら、通信で言えばいいのに。 そう考えるが、私だって同じことをするだろう。親友と数メートルも離れて話をするのは、あんまりしっくり来るものではないからだ。 横まで行く。彼女も私も近くにあった椅子に腰掛けた。彼女が何か言う前に、その深刻な表情を剥ぎ取る為に、冗談を言っておく。 「P90で撃ちまくったゴム弾、どれも当たらなかったんだって? ジャニ」 「なっ……あなたもそんなことを言いますの? 当たってましたわよ、絶対に! ……当たらなかった方が良かったかもしれませんけど」 小声で叫ぶという器用な真似をした後、彼女はようやく笑った。だが心配と名付けられた感情は姿を潜めていたが、その影はまだあった。 「フェブとマーチのこともあり、オクトたちとの大運動会もありで、てんやわんやでしたわね、今日一日は」 「ここ最近で、一番忙しい一日だったかもしれないわね。でも、最近ジャニは仕事なかったでしょ? いい運動になったんじゃない?」 「それならセプ、あなたにだっていい運動だったんじゃあないですの? ここ数週間、あなたの予定表が白紙だって知ってますのよ」 バレてたかあ、と舌を見せる。こうでないといけない。フェブとマーチの間に起こったことが何であれ、それが私たちにとって重大で、 取り扱いには注意を要する事件であっても、私たちの関係にまで、息が詰まって仕方ない、重苦しい空気を持ち込んじゃあ駄目だ。 くすくすと上品に笑う親友の顔を見る。その眉も睫毛も瞳も目尻も頬も唇も、悲しみに染まるよりは喜びに輝いている方が似合っている。 それはマーチだってフェブだって同じことだ。可愛い女の子には笑顔が似合うのだ。従って、誰が何と言おうと、二人には笑顔が似合う。 呵呵大笑しろとは言わないし、無理に笑えと押し付ける気もない。が、せめて心中は楽しい気持ちで一杯になっている方が、必定、良い。 「大丈夫かしら」 「きっと、大丈夫だよ」 フェブと同じことをジャニアリーが言ったから、私もジューンと同じことを言ってやる。 そう、大丈夫だ。私は私に言い聞かせるように、その言葉を噛み締めて、下を向く。無意識の内のことで、気に留めもしなかったけれど。 「え、何? 何よ、ジャニ」 不意に彼女が私の髪を手で梳いた。まごつく私の頭を撫で、彼女は頬まで手を下ろす。包み込むような優しい微笑みが、私に向けられる。 「そうね」 彼女は言った。 「きっと、大丈夫ですわ」 その言葉の直後に、部屋のドアが開いた。ニルソン様が一人で立っていた。フェブに、一緒にマーチの部屋に来て欲しいとのことだった。 私たちは皆でぞろぞろフェブの後に付いて行き、今度はマーチの部屋の向かい側にある、私の部屋で展開を見守ることにした。 * * * フェブラリーはマーチの部屋に入っていった。 * * * ジャニアリーはセプの部屋に飾られた何点かの小物に昔の思い出を見て取っていた。 エイプリルは紅茶の入ったカップを持ってリラックスした様子を装った。 メイは親友の真似をしたが失敗気味に終わっていた。 ジューンは緑茶を啜りながら何をするでもなく椅子に掛けていた。 ジュライは最早己の力の及ぶことではないからと完全に心配することを止めていた。 オーガストは帽子を弄りながら時折、ふう、と息を吐いた。 セプは他の姉妹たちにお茶や菓子を配って時間を忘れようとした。 オクト、ノヴェ、ディッセはジューンがさっき開けてくれた桃缶に舌鼓を打っていた。 このようにして十人の姉妹たちはただ時が過ぎるのを待つ。 そうしてやがて部屋からは、一人の老博士と二人の少女が出て来た。 * * * * * * エイプリルはグラスを掲げて言った。 * * * 「二人の変わらない友情に、乾杯!」 「乾杯!」 「乾杯!」 私の声に続き、ジューンとジュライが唱和して、ワインを飲み干す。赤い液体が、心地良い刺激と共に喉を通り抜けていく。 その感触にもだが、今日を締めくくる感動的な出来事に自室で乾杯出来ることもあって、私は深い満足感を感じていた。 フェブラリーとマーチは仲直りをした。私は何が起こったのか知りは出来なかったけれど、その事実があるだけで良かった。 そう、何があったのか──フェブは漏らさないし、マーチは当然だろう、尚更あの時あの部屋の中でのことを、喋りなどしなかった。 ニルソン様も悪戯っぽく微笑するだけで、全てを聞いていたのに、教えてはくれなかった。長姉も知らなくていいことがあるのだろう。 つまらないと考える品のなさを心の中の屑かごに放り込んで、無事、失われずに済んだ二人の友情を言祝ぐ。 二人の復縁の立役者たちも、思うことは同じらしい。全て明らかにはならないのは不満ではあるが、まあいいじゃないか、というようだ。 「それにしても見ものでしたね、マーチの様子は」 ジュライが忍び笑いを漏らしながら言う。何のことだか見当がつかなかったが、すぐに、部屋から出て来た時のマーチのことと知れた。 彼女は自分とフェブの問題にニルソン様が出て来たことでも、びっくりしていたそうだ。因みに、そういうことには介入しそうにないし、 と彼女は言っていたが、私はそうは思わない。それはいいとして、マーチは私たちがここまで心配しているとは微塵も考えていなかった。 そんな彼女の前に十人の姉妹が勢揃いしていたのだ。彼女の涙腺は、主の意に反し、不覚にも緩んでしまった。 涙を見せたのは刹那のこと。しかし、それだけの時間見せていたなら、私たちはそれがどんな顔だったか思い出せるし、 何ならプリンターで印刷だって出来る。私と他九名の姉妹たちは、マーチの泣き顔をばっちり記憶してしまっていた。 だが、マーチはフェブと喧嘩したことの次ぐらいに、自らの迂闊さを後悔したが、もし彼女の泣いた時の顔を見て、滑稽と笑う者あらば、 私は許しはしないだろう。彼女は笑いもしていたのである。ジュライは口にせず、他の姉妹たちは気付きもしていないようだったが、 彼女は微笑を浮かべていた。安堵の笑みだ。親友をまたその腕の中に抱きしめられる喜び、親友の腕の中にいることが許される喜び。 これらのものを解さない者を、私は軽蔑する。 「いや、しかし三つ子たちとの追いかけっこも凄かった」 ジューンが言い、それに皆が頷いた。私はオクトにタックル、ジューンは罠、ジュライはディッセに飛び蹴り紛いのことをされたのだ。 あんなに逃げ回る三人を、いつも一人で追い掛けているセプの苦労が、身に染みて分かるというものだ。今度から彼女の愚痴話も、 ジャニアリーに押し付けずに聞いてやろう。空ろになったグラスに、ワインを注ぐ。二人の立役者のグラスにも、同じようにする。 気に食わないところは数多くあるが、ジュライは気の利く妹だ。当事者を除いて一番苦労した三人で、この小さな祝賀会を開こうと、 とっておきの一本を私の部屋に送りつけて来たのである。彼女だという証拠はないが、こんなことをする姉妹は彼女以外に思いつかない。 メイだったら三人だけと言わず、皆でやりたがるだろうし、セプやジャニアリーなら、祝賀会をしようとは特段考えない筈だ。 そこまで大袈裟に祝うほどの出来事ではない。が、この難問に共に立ち向かった二人とは、せめてこうして労い合う場所を設けたかった。 妹からの贈り物は、渡りに船だった、という訳だ。私は夜になってから二人を呼び、軽食とジュライのワインで彼女たちをもてなした。 「フェブとマーチは、今はどうしてるのかしら」 「ん、もしまだ遊んでいるのでなければ、フェブの部屋で二人で寝ているだろう。マーチは泊まる気満々だったみたいだから」 「あらあら、あんなにフェブを避けてたのに、一旦素直になったら可愛いものですね」 嫣然とした相好で、そう評するジュライ。私は軽食の中に含まれていたチーズを一口分つまみ、口の中に入れた。 ところで、とジューンが話を変えたので、そちらに注目する。 「このワインを選んだのはエイプリル、それともジュライ? 今まで飲んだ中でも一番美味しいな」 「ああ、感謝の言葉ならジュライに差し上げなさいな。これを選んだのはこの子だから」 すると彼女は驚いたように首を振った。 「いいえ、私ではありませんよ。私がお酒を飲むなら、ジューンは誘ってもエイプリルは誘いません」 「じゃあ、誰が?」 考えてみる。ジュライでないということは、十二姉妹ではない。なら一人しかいないだろう。私とジュライはがっくりと肩を落とした。 「お母様……きっと御存知だったのでしょうね。考えてみれば、三つ子の大騒ぎもありましたし」 「でも多分、その前から知っておられたのでしょう。私たちのお母様は、考えてみずとも、そういうお方ではありませんか」 なるほど相違ない。フェブラリーと接する時間の差があっても、私に見抜けなかった事実を、お母様はお見抜きになることが出来るのだ。 マダム・マルチアーノ。私の目標。目指す先。百年千年掛かろうとその域に達せぬとしても追い続けたいと心底思う、最高の賢母。 目を閉じると、自室で、あの二人の仲直りを知って、嬉しそうに頬を緩めるお母様の顔が、瞼の裏に浮かぶ。私はグラスを再び掲げた。 「お母様と、お母様の素敵な御褒美に」 「乾杯」 「乾杯」 ちん、と音を立て、グラスをぶつけ合う。宴は続く。明日は昨日今日ほどには大変ではないだろう。お母様のご褒美をゆっくり楽しもう。 * * * 「ああ、そうそう、忘れていましたけれど、ジュライ。言ったことはきちんと守って貰わないと困りますわね」 「何ですか、エイプリル」 「お姉様と呼びなさい。そうしろと私が言ったら、そうするのでしょう?」 「……はい、エイプリルお姉様……で、気は済みましたか」 「少しね」 「でしょうね」